日米同盟の正体を知らなかった日本人
2009年9月27日
宇佐美 保
雑誌『週刊金曜日(2009.9.11号)』の雑誌『週刊金曜日(2009.9.11号)』の記述を、先の拙文《「911」事件に対する元外務省国際情報局長&前防衛大学校教授のご見解》に同様に引用させて頂きます前に、孫崎亨氏の著作『日米同盟の正体 講談社現代新書』に驚くべき記述を見ましたので、引用させて頂きます。
シーレーン構想の真の目的 第二次大戦以降、米国は日本の軍国化を抑えることを最重視してきた。その流れを変え、日本に軍事力をつけさせ、これを米国の世界的戦略の中で積極的に使った最初の動きは、一九八〇年代から今日まで継続するシーレーン構想である。
ということを基本としている。 こうした歴史的な経緯からすると、日本にP−3C対潜水艦哨戒機を大量に保有させ、米国の戦略に軍事的に貢献させるという流れは、過去の対日政策を大きく方向転換させるものである。それは今日のイラク戦争への協力、アフガニスタンへの陸上自衛隊派遣、ソマリア沖への海上自衛隊派遣の模索につながっている。その意味で、対潜水艦哨戒機の大量保有へいかなる経緯、論理で動いたかを検証することは、将来の日米安全保障関係がどう発展していくかの理解に通ずる。 多くの日本人は、シーレーン防衛構想によって対潜水艦哨戒機P−3Cを保有したのは、石油を主体とする補給海路の確保のためであると理解している。 |
私は、親友から“日米同盟なくしては、日本の石油の生命線であるシーレーンの確保は不可能である!”と説教された事がありますが、その親友は大新聞社の記者を長年務めていたのでした。
だがそれは間違っている。次の文献を見ていただきたい。 二〇〇一年に国家安全保障会議(NSC)日本・朝鮮担当部長、〇四年同上級アジア部長兼東アジア担当大統領特別補佐官の任に就くなど、米国国内で東アジアの専門家として信任されているマイケル・グリーンは、論文「力のバランス」で次のような説明をしている。 当時、米国を標的とする核兵器の三本柱の新たな一本である潜水艦のために、ソ連がオホーツク海を海の要塞として使用していることに米国海軍はますます懸念を強めていた。レーガン政権は、米国の焦点を極東の同盟国に役割と任務を割り当てる問題へと移した。 シーレーン防衛の政治的承認を勝ち取るための好機は、鈴木善幸総理が一九八一年五月、ワシントンを訪問したときに訪れた。鈴木は一〇〇〇カイリのシーレーンの防衛を意味することを宣言した。 この距離はオホーツク海のソ連海軍力を封じ込めるに十分だった。おそらく、鈴木自身は自分の言った言葉の意味を十分に咀嚼していなかった。これは欧州におけるソ連の攻勢に地球規模で対応するためオホーツク海のソ連の潜水艦を攻撃することを意味していた。 日米同盟は何十年にわたり、アメリカを軍事的にアジアに留め、そして日本を西側に留めておくための道具であった。いまや、この同盟はソ連に対するアメリカのグローバルな軍事封じ込め戦略の中心的な構成部分となった。(ステイーヴン・ヴォーゲル編著『対立か協調か』中央公論新社、二〇〇二年所収の要約) グリーンのこの解説は驚くほど率直である。グリーンは「いまや、この同盟はソ連に対するアメリカのグローバルな軍事封じ込め戦略の中心的な構成部分となった」、日本のシーレーン構想は「欧州におけるソ連の攻勢に地球規模で対応する」戦略の一環であると述べている。当時、日本政府の関係者の中で、こうした説明を国民に行った人はおそらく皆無であろう。さらに言えば、ぞっとする話であるが、当時、日本政府内にこのことを理解していた人はいなかったのではないか。これが日本の安全保障政策の実態である。 米国の戦略を十分に理解しないで米国の戦略に乗っかっていく日本という流れは、何もこのときに限ったことではない。事態の本質を見極められず、米国の表面上の説明を鵜呑みにするという対応は、その後のイラク問題、アフガニスタン問題でも継続している。 |
私達(当然私の親友も)「日本のシーレーン構想」は、アラビアから日本までの航路の安全を確保する為と理解していた筈ですが、次を読ませて頂くと私達の誤解がはっきりとしてきます。
次にデヴィッド・リヴキンの論文を紹介したい。この論文は米国海軍関係で最も権威のある“PROCEEDINGS”誌の一九八四年最優秀論文となった。 「ソ連は戦争では一気に政治・軍事の中心部を攻撃する戦略をとっており、海上輸送路を遮断するという作戦の比重は極めて低い。かつ最近の運用を見るとオホーツク海での戦略潜水艦を守ることに集中し、輸送路攻撃の比重はさらに下がっている」(筆者訳) ソ連時代に海軍の戦略確定に重要な役割を果たした人物に海軍司令官セルゲイ・ゴルシコフがいる。彼は著書『ソ連海軍戦略』(原書房、1978年)で、ミサイル潜水艦は地上基地の発射装置より大きな生き残り能力を持っており、そのおかげで大きな抑止力になっている、海軍における主な役割は国家の戦略核打撃力ヘの参加である、と主張している。 リヴキンとゴルシコフの間には国籍の違い、年代の違いがある。それでも両者にはソ連海軍の主たる目標について共通の認識がある。両者ともソ連海軍の最も重要な目的は、いかに米国に対する一斉攻撃能力を維持するかであると見なしている。ここではソ連海軍が日本のタンカー攻撃を行うことの戦略重要性と蓋然性は極めて低い。 |
何故、米国の思惑を、日本は自分の都合の良いように曲解してしまうのでしょうか?!
そんな日本を米国は笑っているかのように、孫崎氏は次のようにも記述されておられます。
キッシンジャーと言えば、日本では国際政治の分野で神様のように扱われてきた。ではこのキッシンジャーが日本についてどう評価をしてきたか。次はキッシンジャー(当時国務長官)が一九七四年にケ小平に述べた台詞である。
(『キッシンジャー[最高機密]会話録』毎日新聞社、一九九九年) キッシンジャーが日本人は戦略的な思考ができないと批判していたことは、米国関係者の中では定説のように扱われている。マイケル・シャラー・アリゾナ大学教授は『マッカーサーの時代』(恒文社、一九九六年)、『「日米関係」とは何だったのか』(草思社、二〇〇四年)等の著作のある中堅のアジア研究学者である。彼は九六年の日米プロジェクト会議での報告書「ニクソンショックと日米戦略関係」の中で、「キッシンジャーの側近によれば、キッシンジャーは
と嘆いていた」(筆者訳)と記述している。 |
このような背景を有する「日米同盟」は考えすべきではないでしょうか?
孫崎氏は、次のようにも書かれています。
日本でもいままで安全保障に関する議論は行われてきた。しかしこれまでの安全保障論議では、誰が敵か、いかなる手段で攻撃してくるか、攻撃を避けるためにいかなる対応をするかの議論が不在であった。わが国の安全保障の根本は、他の国に軍事攻撃をさせないことにある。 それは従来の日本の安全保障政策が根本的欠陥を持っていることに起因する。 第二次大戦以降、世界の軍事戦略では、他の国がなぜ攻撃しないかとの問いに対する安全保障上の答えは、攻撃した国が軍事的に攻撃以上の報復を受けることである。 この軍事戦略論に基づけば、日本自らが、日本を攻撃した国に対して、日本に与えた被害以上の被害を与える能力を持つことが最も自然である。 その役割は米軍が担っている。 それは従来の日本の安全保障政策が根本的欠陥を持っていることに起因する。 第二次大戦以降、世界の軍事戦略では、他の国がなぜ攻撃しないかとの問いに対する安全保障上の答えは、攻撃した国が軍事的に攻撃以上の報復を受けることである。 この軍事戦略論に基づけば、日本自らが、日本を攻撃した国に対して、日本に与えた被害以上の被害を与える能力を持つことが最も自然である。 その役割は米軍が担っている。 |
この孫崎氏の記述を待つまでもなく、私達日本人は、「日米同盟」によって、日本の安全は「米軍が担っている」と信じて疑っていません。
なのに、孫崎氏は次のように続けられます。
しかし、どこまでの確実性を持っているのか。
と記述している。
では、たとえば、中国はなぜ日本を軍事的に攻撃しないのか。 |
この「キッシンジャーの説に従えば、自国の主要都市を犠牲にしてまで米国が同盟国のために戦うかどうかは疑問がある」との孫崎氏の指摘は、恐ろしくとも真実なのかもしれません。
でも、氏は次のように続けられます。
では、なぜ中国が日本を攻撃しないのか。 攻撃を行わない大原則は、繰り返すが、攻撃した国が逆に軍事的に攻撃以上の報復を受けること、あるいは犠牲を受けることである。もっともこの報復や犠牲は軍事に限らない。 ソ連の崩壊後、中国を含めどの国も、共産主義の理念では国民の支持を得られない。 こう見てくると、今日の安全保障戦略を考えるとき、狭い意味の軍事のみでなく、経済的結びつきも含めて考えるという広い視野を持って考察する必要がある。 |
更に、孫崎氏は次のようにも書かれておられます。
「同盟の非対称性」をどう見るか 日米安全保障関係の中で整理しておく必要があるのは、「同盟の非対称性」である。 日本国内に、「米国は日本を守る、しかし日本は米国本土を守らない、これでは不公平だ、これを補うため、日本は他の分野で、できるだけ米国に貢献しなければならない」という論がある。一見もつともらしい。この論は勢いを増し、今日日本の安全保障論議の主流を占めている。しかし、この論は正しくない。 日米安全保障関係の取引は、米国が日本国内に基地を持つ、日本が米国側の陣営につく、日本に攻撃兵器を持たせないこととの引き替えに米国は日本を守る、という取引である。この取引の提唱者は、米国である。米国は現在もこの取引は十分意義があると見ている。 第三章で、冷戦後、新たに米国が戦略を模索した最初が一九九〇年八月のブッシュ(父)大統領演説であり、その最も重要な柱が、「地球規模の緊急展開と即応力強化」であることを見た。 その後の米軍にとり、ますます緊急展開と即応力が重要になっている。米軍の緊急展開の中心の一つが在日米軍である。極東からインド洋までをカバーする第七艦隊旗艦ブルーリッジは、横須賀を母港としている。米国がテロとの戦いを戦略上の最重要課題としている今日、その重要度はますます上がっている。 米軍の戦略遂行には、米軍基地の前方展開が不可欠である。その際、日本の基地は中核的役割を果たす。一九九七年から二〇〇一年にかけて駐日米大使特別補佐官として日米安全保障問題を担当したケント・カルダーは、『米軍再編の政治学』(日本経済新聞出版社、二〇〇八年)で、次のように記述している (要約)。 (1)米国の基地プレゼンスは五つに大別される、そのうち最も重要な役割をになう 戦略的価値を保持している主要作戦基地では、ドイツの空軍基地と日本の嘉手納 空軍基地が典型である、(これをいったん失い)再建設するとなると法外な費用 がかかる (2)海外の米軍基地の中で将来を考えても深い意味を持つのがドイツと日本の施設 である。日本における米軍の施設の価値は米国外では最高である (3)日本政府は米軍駐留経費の七五%程度を負担してきたが、この率は同盟国中最 も高い。ドイツは二十数%である この記述を見ても、日本の基地が米戦略にいかに重要であるかが明白である。 日本の米軍基地は、米国戦略の中で、 米国にとつて日本における米軍基地がいかに重要かを認識すれば、 日本側にこの認識があるか否かが、今日の日米安保条約のあり方を考える岐路になる。 |
なんだか変ですよね!?
「米国の核の傘」は、どうやら「米国だけに有効な傘」であるというのに、「米国に最も有益な基地を駐留経費の七五%程度を負担駐留経費の七五%程度を負担」して提供しているのですから!
やはり日本は米国の属国なのでしょうか?!
ここまでで、又、長くなってしまいましたので、次の《戦争よりもエコが良い》に続けさせて頂きます。
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